推理小説ナビ     ミステリの小道具《毒薬》


File No.01  砒素(ひそ) As

 性質

 鉱物毒。古代から鶏冠石などで知られており、入手が簡単で無味無臭であることから、化学がさほど進化していなかった頃には殺人に最も適した薬物として絶大な人気を誇っていた。しかし、髪や爪などに長く残る上に、その検出も比較的容易であり、殊に、マーシュテスト(砒素鏡法)が開発されてからは「愚者の毒」と揶揄されて一転不人気に。
 ルネサンス期のヨーロッパでは、その裏面史に君臨する毒薬の王様だったし、ミステリ界でも重宝されていた。

 ミステリ・ファイル関連

 ブランヴィリエ侯爵夫人 ・・・・ 砒素による連続殺人の加害者として歴史的超有名人。(ミステリアスな肖像 File No.01)

 火刑法廷 ・・・・・・・・・・・・・・ ブランヴィリエ侯爵夫人を扱ったミステリ (ミステリ・ファイル File No.019)

関連書籍・参考文献

 創元推理文庫  毒薬ミステリ傑作選 R・ボンド編

 河出文庫  毒薬の手帖 澁澤龍彦著




File No.02  ストリキニーネ strychnine

 性質

 インド産の植物マチンやホミカの種子から抽出されるアルカロイド系の毒物。1820年、フランスの薬学者の手によって単離され、以来、犯罪の歴史に度々登場することになった。どちらかといえば化学や薬学の知識に明るいインテリ層が犯す高級犯罪?で使われることが多い。

 毒物としての難点は、やたらに苦いこと。水にも溶けにくいし、凄まじい苦痛を伴う奇態な発作を引起すのでストレートに毒殺を疑われること。とにかく、よほどの嗜虐性の持ち主でない限り、恨みを持ってもいない被害者にこんな毒を選択するのはためらうだろう。

 ストリキニーネを用いたミステリの有名なものとしては、クリスティの 「スタイルズ荘の怪事件」 、エラリー・クィーンの 「Yの悲劇」等々多数。

 ミステリ・ファイル関連

 Yの悲劇 ・・・・・・・・・・・・ 富豪の一族を襲う連続怪死事件とその驚くべき結末。(ミステリ・ファイル File No.012)

 スタイルズ荘の怪事件 ・・ アガサ・クリスティの処女長編。ポアロ初登場作品。 (ミステリ・ファイル File No.034)

関連書籍・参考文献

 創元推理文庫  毒薬ミステリ傑作選 R・ボンド編

 河出文庫  毒薬の手帖 澁澤龍彦著




File No.03  ヒオスチン hyoscine

 性質

 正式な日本語表記はヒヨスチンなんだそうだ。ミステリに出てくるときは大概ヒオスチンかヒオスシンだと思う。

 ナス科の有毒植物ヒヨスなどから抽出されるアルカロイド。中枢神経を抑制し、催眠効果があるため、古代から麻酔剤として用いられてきた。大昔の魔女たちが幻覚を見せるのに使っていたとも言われる。
 これを実際に毒殺に用いたのは、妻殺しで有名なクリッペン博士が最初らしい。無味無臭で死に至るまでの苦痛が少なく、証跡が残りにくい。スマートで洗練された毒薬という印象がある。
 クリスティの短編「ナイチンゲール荘」のクライマックスで主人公の女性が 「ヒオスシンという、ほんの一つまみで人を殺せる毒薬がある・・」 みたいなセリフを口にする場面では、この毒薬の特性が効果的に生かされている。また、戯曲「ブラック・コーヒー」でもこの薬物が殺人に使われている。

関連書籍・参考文献

 創元推理文庫  毒薬ミステリ傑作選 R・ボンド編

 河出文庫  毒薬の手帖 澁澤龍彦著




File No.04  青酸化合物 hydrocyanis

 性質

 シアン化水素、青酸カリウム、青酸ナトリウムなど。
 人体に吸収されると、細胞の呼吸を妨げ、低酸素状態を引起して急激に窒息死させる。

 説明の必要が無いくらい有名な即効性の毒物。TVドラマで役者が喉を押さえて、「ウッ」 とか言って昏倒するお馴染みのシーンで使われるのはだいたいこれ。探偵や刑事が遺体の口元を嗅いで 「このアーモンドの匂いは・・・間違いない、青酸系毒物だ!」 と発言するのもデフォルト。
 ありがちな入手ルートはメッキ工場。写真の現像室。病院。

 ミステリで使われる頻度はかなり高いと思われるが、ポピュラーすぎて安易な印象がつきまとうのが難点。

 ミステリ・ファイル関連

 ピカデリーの殺人 ・・・・ アマチュア探偵チタウィック氏が活躍するミステリ黄金期の傑作 (ミステリ・ファイル File No.048)


関連書籍・参考文献

 創元推理文庫  毒薬ミステリ傑作選 R・ボンド編

 河出文庫  毒薬の手帖 澁澤龍彦著




File No.05  タリウム thallium

 性質

 除虫剤、除鼠剤に含まれる。
 人が吸収すると体内で広く分布し、悪心、腹痛、嘔吐など様々な身体症状に見舞われる。

 殺人に使われた場合、症状が一定しないことが医師の診断を迷わせ、毒殺を疑わせにくくする。
 タリウムで5人もの人間を毒殺したオーストリアの女性が長く犯行の発覚を免れたのもそのためだろう。この事件をヒントにしてクリスティが書き下ろしたのが 「蒼ざめた馬」 で、超常現象を絡めた異色の傑作スリラーに仕上がっている。 

 ミステリ・ファイル関連

 蒼ざめた馬 ・・・・・・・・・・・・ (ミステリ・ファイル File No.050)

関連書籍・参考文献

 創元推理文庫  毒薬ミステリ傑作選 R・ボンド編

 河出文庫  毒薬の手帖 澁澤龍彦著