平成19年2月9

「登記識別情報制度」についての意見表明

埼玉司法書士会登記法対策部 不動産法部会

 

平成18年12月、登記識別情報制度についての研究会報告書が公表された。しかるに、同報告書では、登記識別情報制度についての問題点が多数指摘されているものの、我々司法書士が期待した制度そのものの存廃についての判断はなされず、かえって、同制度の存続を当然の前提とするかのような改善策が列挙され、法務省において今後その改善策の実現性を探っていくものとしている。

しかし、当部会としては、これまでの研究・議論の結果、登記識別情報制度はいかなる改善策を施そうがその存在自体が不動産登記におけるオンライン申請の普及・促進を阻害するのみならず、不動産登記制度全体の基盤を揺るがしかねないとの認識に至り、今後の不動産登記申請においては登記識別情報を使わない実務慣行を早急に確立すべきとの観点から、次のとおり、意見表明・提言する。

 

1.資格者代理人による本人確認情報を活用した登記申請を推進・一般化する。

 

登記識別情報は、登記名義人が登記を申請する場合において、当該登記名義人自らが 当該登記を申請していることを(登記官が)確認するために用いられる符号その他の情 報である(不登法第2 11 号)。したがって、登記申請代理人たる我々司法書士が登記識別情報によって本人確認を行うなどということを不動産登記法は予定もしていないし、想定もしていないと云える。つまり、登記識別情報制度は単に登記官の本人確認のためのみに用意された制度であり、登記識別情報による本人確認に何ら裏付けも手段も持たない我々司法書士にとっては、それは単なる無意味な「符号その他の情報」にしか過ぎないのである

一方、不動産登記法第22条は、登記申請をする場合に登記義務者(登記名義人)の登記識別情報を提供しなければならないとしながらも、同条ただし書きにおいて、「登記識別情報が通知されなかった場合」、「登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由がある場合」はこの限りでないとし、その場合の手続きを同法第23条第1項の事前通知を原則としたうえ、同条第4項では登記官が資格者代理人から「申請人が第1項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき」は事前通知を要しないとしているのである。

したがって、我々司法書士にとって、ひいては登記依頼人にとって、安全確実な不動産登記を実現するためには、その有効証明に多大な手間と費用を要し、そのうえ常に失効の可能性のある登記識別情報を用いた登記申請よりも、登記義務者の本人確認情報を提供しての登記申請がはるかに有効・確実であると言うことができる。

よって、当部会としては、上記のとおり、今後の不動産登記申請においては登記識別情報を使わず、資格者代理人による本人確認情報を活用した登記申請を推進・一般化すべきとの結論に達したものである。

 

2.資格者代理人による本人確認情報を活用するための課題を克服する。

 

資格者代理人による本人確認情報を活用した登記申請を推進・一般化するためには、現状、少なくとも次の三つの課題を克服する必要があると考えられる。  

すなわち、

@        登記識別情報が通知されているのに、それを使用せずに本人確認情報を提供して申請することは、不動産登記法第22条ただし書きに規定する「登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由」として定められた不動産登記準則第42条第1項の理由に該当するのかと云う素朴な疑問。

A        本人確認情報作成に係る費用負担のあり方はどうあるべきかという問題。

B        金融機関等の抵当権の抹消は、本人確認情報の作成・提供が現実問題として困難である。

以下、この三つの課題の解決策について検討する。

 

@「登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由」の追加を早急に実 現する。

 

不動産登記準則第42条第1項は登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由として、「(1) 登記識別情報が通知されなかった場合」、「(2) 登記識別情報が失効した場合」、「(3) 登記識別情報を失念した場合」をあげている。

このうち、(1)の登記識別情報が通知されなかった場合は、ともかくとして、登記識別情報を使用せずに本人確認情報を提供して申請するためには、(2)の登記識別情報を失効させることが第一に考えられる。

しかし、我々司法書士が登記義務者の代理人として登記識別情報を事前に失効させるためには、登記義務者の印鑑証明書と委任状が必要となり、またその手間ひまを考えるとあまり現実的とは言えないと思われる。

そこで、(3)の登記識別情報を失念したことを理由とするのが現実的とは思われるが、眼前に登記識別情報通知書の現物(または写し)を提示されたとき、「失念」を理由として本人確認情報を提供することには、いささかの躊躇を覚えるのも確かである。

したがって、先の「登記識別情報制度についての研究会報告書」に改善策として提言されていた「登記識別情報の管理のため」、「当事者の合意」等を正当な理由として不動産登記準則第42条第1項に追加するよう、埼玉司法書士会は、日司連、法務省に働きかけるべきものと思われる。

 

A 本人確認情報作成に係る費用負担のあり方の指導を徹底する。

 

本人確認情報の提供による登記申請に当たっては、本人確認情報の作成・利用にかかる費用負担のあり方が問題とされ、それが本人確認情報の提供による登記申請が普及・拡大しない理由の一つとされるところである。

ところで、この「費用負担のあり方」には、「(1) 報酬額の多寡」の問題と、「(2) 誰が負担すべきか」という二つの問題があると思われる。

(1)の報酬額の多寡の問題については、平成18年3月8日日司連発第1723号通知の趣旨をくむ適正な報酬額と言うことになろう。

ではその適正な報酬額がいくらになるかと云うことになるが、それは個々の事案によるものの、少なくとも巷間言われる七五三と云ったものではないだろうと思われる。

また、(2)の誰が負担すべきかと云うことについても、旧法の保証書のイメージを引きずったまま登記義務者に負担を求める慣行を脱却する必要があると思われる。なぜならば、本人確認情報の作成・提供による登記申請は、登記義務者にとってさほどのメリットもないのに、なぜその費用負担をしなければならないのかという疑念を禁じ得ないからである。

当部会の中には、受益者である登記権利者(設定の場合は債務者)に負担させるべきとの意見もあったが、すくなくとも義務者に負担させる筋合いのものではないとしたうえ、当該登記申請にかかる総費用の一部として、その負担を求めるべきとの結論に達した。

よって、会員司法書士にその実務慣行を指導・普及すべきものと考える。

 

B 金融機関等の抵当権の抹消方法について研究する。

 

金融機関等の抵当権の抹消の場合は、本人確認情報によることが現実的に難しく、当部会の中にも、この場合は、登記識別情報によることもやむを得ないのではないかという意見が出された。しかし、オンライン申請を考えた場合、抹消の登記義務者たる金融機関は電子署名を付した委任情報を提供することになるが、これは書面申請の委任状に印鑑証明書と資格証明書を添付したのと同様に見なすことができると考えられる。

そこで、金融機関の業務権限証明書と抹消委任状を電磁的に作成し、それに電子署名を付したものをフロッピーデスク(FD)に格納したうえ、添付書面の一部としてFDを提出するいわゆるFD申請を活用すると、金融機関等の抵当権の抹消の場合も本人確認情報の提供による申請がし易くなるのではないかとの意見も出たが、FD申請対象庁が全国で未だ二庁しかなく、その方法の可能性を研究する必要があるとの結論に達した。

以上